7階建てマンションの5階に住んで5年半。
ここ1年ほど上階に住む隣人の発する音が気になる。
ダイニングの椅子を床にずらしているような「ズズズズズーゥ」という重量感のある音。
主に夕方から夜9時頃に聞こえてくるので、はじめは老夫婦が重いダイニングセットを使っているのかな?くらいに思っていた。
が、ここ最近、夜中1時にも音が…。
ささやかな晩餐を想像していたわたしにとって、それは一瞬にしてホラーに変わった。
夜中に床を引きずる重低音…何を引きずっているんだ!?
少々ユニークな住居ではある。
一時期、はす向かいに訳ありっぽい家族が住んでいた事があって、どうやらこれも訳ありっぽい事情で戻ってきた父親を家族が閉め出すというけっこうな大騒ぎが繰り広げられ、結局は娘さんが説得して一件落着したのだが、そのときは廊下から響き渡って来る大音量の修羅場に正直真剣に引っ越そうかとも考えた。が、間もなく一家はそんな修羅場とは裏腹に音もなくどこかへ引っ越していった。今はまじめそうなサラリーマン風カップルが住んでいる、防犯システムを厳重につけて。
一階に住んでいる女性管理人さんは、かなりまじめできっちりした性格らしく、毎週土曜は朝7時からマンション中の廊下という廊下に掃除機をかけ、水をまく。
雨だろうが台風だろうが関係なくその「儀式」はおこなわれる。
もちろん、その音に週末の安眠など許されない。水をかけまくるので、夏には蚊も発生する。
またある時、階段を使って部屋へ帰っていると、3階の踊り場に張り紙がしてあった。
「ここで爪を切らないで下さい。」
…爪、家で切りなさいよ。
「来たときよりも美しく。」
と、わたしは書きたい。
あぁ、都会のマンションは入れ替わりが激しい。
そして、都会のマンションに住む人々の多くは「隣に住んでいる人の顔を知らない」というのがもはや常識のようになっている。
そんなことは言い訳にならないが、わたしも上階の住人の顔を知らない。(もしかしたら、「あ、あの人が!」となる可能性はあるにしても。)
そこに誰がいるのかわからないことが当たり前になっていること。
エレベータでばったり会うと挨拶はする。
しかし、部屋に帰ってふと、どんな相手に挨拶したのか?と思い出そうとすると、次の瞬間に忘れている。
その忘れてしまった誰かが発する音に耳を傾ける瞬間、そのときわたしは彼らに興味をそそられる。
コンクリートに固められた要塞の中で起こっている「状態」をある意味において楽しんでしまうわたし。悪趣味?
そんな隣人たちの素顔は、見えない方が想像力がかき立てられて面白いのかも知れない。
きっと、多分。
昭和の家族ドラマのようなお醤油を気軽にかりられるご近所さんにも憧れるんやけどね。