2010年7月20日火曜日

[IINA] Dior + David Lynch 宣伝と映像

ファッション界は、アート界よりもセンスがいい。
ビジネスセンスも。お金が流れているから、広報宣伝にも予算をかけられるし、先行投資したぶんを回収できるマーケットを作っている。投資して、回収する。回収するから投資ができる。このサイクルがビジネスの基本である。
よく貧乏アート関係者にこういう話をすると「それはファッション業界だから出来るんですよー」と言われるが、そもそも「業界が違うから」「無理でしょう」と思っている人とは仕事が出来ん。成功する可能性を感じない。

Diorがキャンペーンとして行ったのは、インターネット上で映像を使った宣伝。ありがちな「ショートムービー」だが、最近あまりやられてない手法だ。「Lady Noire」「Lady Rouge」「Lady Blue」という3つのコンセプトにそれぞれ映像がある。どれも「フィルム・ノワール」「サスペンス」のテイストを持っている。

David Lynch + Dior

3つ目の「Lady Blue」の監督は、デビッド・リンチ。その人選もまた面白い。デビッド・リンチは、「インランド エンパイア」以降、フィルムで映画を作らない、と言っていて、リンチ自らカメラを持ち、撮影、編集をしてしまう。「インランド エンパイア」では、SONYの業務用小型ビデオカメラPD-150という機材で撮影している。これは映像に関連する大学であれば絶対にあるカメラだし、プロの制作プロダクションも取材で使ったり、ハイビジョンになる前は深夜番組のちょっとしたインタビューシーンなどでも、このカメラが使われている。今回の「Lady Blue」は、ハイビジョンだが、SONYの小型のハイビジョンカメラを使っている。メイキングを見ると、監督自らカメラを持って撮影している姿が見られる。こういう映像を見ると「どんな機材でも作品は作れるんだなぁ」と誰しも勇気をもらえるに違いない。


ストーリーは、まさにデビッド・リンチワールド。すべてが意味ありげであり、解決しない。詳しくは是非映像を見てほしい。



「宣伝に映像を使う」というコンセプトは特に新しいことではない。3つのコンセプトに3つの映像作品を作る、というのもそうだし、キェシロフスキ監督の『トリコロール』では、3つの色を映像とストーリーに映し出している。しかし、じゃあこのDiorの手法は古いのかと聞かれれば「新しいとか古いとか、手法がどうのこうのじゃなくて、カッコイイからいいんだよ」ということだ。そう、ジョン・ガリアーノはカッコいい。

この映像が面白いのは「物語」があることである。ファッションブランドのキャンペーン映像というのは、イメージ的な映像が多かった。ところがDiorの今回の映像は「映画」として完成させて、若干わざとらしく商品が強調されているのが面白い。そもそも商業広告が苦手と思われるデビッド・リンチを起用するあたり、ジョン・ガリアーノはすばらしい。WEBでの広報の多くが、FLASHを使ったグラフィックデザインや、インタラクティブなWEBサイトを使ったものになっているこの時期に、「映画を作る」という発想がいい。日本だと資生堂がかなりプッシュしている『フラワー』というあまり見る気のしない映画があるが、コンセプトそのものに宣伝色が強すぎて、チケット買って宣伝見せられてるようなもんだ、あれは。Diorが無料でWEBサイトでデビッド・リンチ流す、という広報のセンスとは比べモノにならない。『フラワー』は「資生堂のTSUBAKIのCM女優が主演」という宣伝ばかりで、監督の名前もあまり出てこない。これは映画という形式でのCMなんだな、と思ってしまう。

今日本では、企業と映像(TVやインターネットなど)リンクが物凄い。もちろんこれまでも企業の投資があって、映像というのは製作できてきたわけだけども、ここ最近はすこし動向が異なっている。企業のリクエストが「内容に直接的」なのだ。TVを見ていてわかるように純粋な番組作品というのは少ない。ちょっとしたバラエティーでも、企業紹介、商品紹介が基軸だし、ひとつの企業が1番組すべてのスポンサーになっているケース、一社提供番組も増えて来た。『芸人報道』とか。それは映像というメディアに多くの人たちが価値を見いだしている、ということだと思う。その反面、安易なものも多い。宣伝なのか番組なのか分からないようなものも多い。観る側の意識が高くないと、危なく騙されそうになる。『皇潤』のCMとか、ぼーっと見てると、ドキュメンタリー番組かと思うような導入になっている。ニュース番組すらキワドい。すべてが安易に商品に直結している。そこがDiorのキャンペーンと違うところかもしれない。Diorは映像で商品のイメージを伝えていく、という映像の使い方だが、最近のTVはその商品をすぐ買わせようとする。その違いは大きい。

Diorの今回のキャンペーンをみると、マニアックすぎるとは思うから、一般に広く伝わるCM効果は薄いかもしれない。のだが、Diorに興味のなさそうな、デビッド・リンチのファン、は少なくともこのWEBサイトを見るだろう。その数がビジネス的にペイラインを越える数なのかは知らないけど、そうやってマーケットってのは広がっていくんじゃないかなー、と思った。